[死者の部屋]ファーストインプレッション

どういう経緯でフランスのミステリ作家フランク・ティリエに関心を持ったかというと、きっかけは売上データ確認に見た氏の「七匹の蛾が鳴く」(ランダムハウス講談社文庫)。
その猟奇性、主人公の救われない経歴、あと、蛾って、鳴くん?という好奇心から後書きなどを読んでみると、どうやら「タルタロスの審問官」の続編らしい。で、その粗筋を読んで、
「うは~、この話の続編でああいう展開ですか。主人公に容赦ねぇなぁ。なんというドS」
と、私は大喜び。
しかし、残念ながら「タルタロス~」はウチでは売り切れ中。えー、と顔をしかめつつ作者の出版履歴を見てみると、なんと先月、新潮文庫から出ているではないの。そして在庫アリ。
というわけで(『人類が消えた世界』は途中だし『けだもの』感想もまだ1回分残ってるのだが)買ってしまいました。

c0154066_1130478.jpgフランク・ティリエ「死者の部屋」新潮文庫

《あらすじ》
はね殺した男のバッグには200万ユーロ。失業中の二人組は被害者を沼に沈め、金を持ち去る。だがそれは、誘拐されたうえ現場付近の倉庫から扼殺体となって発見された少女の身代金だった。クリスマス休暇で手薄なダンケルク警察では、プロファイリングを無二の趣味とする産休明けの巡査長リューシーが捜査に駆り出される……。
(新潮社HPより)


まず、個人的な感想で申し訳ないが、とにかく訳文と相性が良かった。私の場合最初の1文で判断できてしまうのだけど、これはOK。ああ、これは読み進められるな、と。
9章まで読んだのですが、今のところメインの視点は6つ。

轢逃げ犯その1、ヴィゴ。(フリチンバトルはしない)
轢逃げ犯その2、シルヴァン。
誘拐犯《けだもの》。
巡査長リューシー。

この他に随時誘拐された少女の視点も挿入され、テンポがいい。そして人物描写もなかなかよい。
轢逃げ犯のリストラITエンジニアコンビの一人ヴィゴは事故隠蔽の主犯格で、通報を主張した気弱なシルヴァンを言いくるめ、シルヴァンには「金はほとぼりが冷めるまで使えないから、それまでいつもとかわらぬようにしろ」と言い含めておきながら、再就職の(彼にとっては屈辱的な)面接を放り出し、すでに大金持ち気分。危ない危ない。
シルヴァンもビクビクしながら金を当て込んで煙突修理とかしちゃうしなー。危ない危ない。

主人公のリューシーは犯罪心理分析が趣味で現場志向だが、落ち葉拾いみたいなデスクワークにうんざりしているシングルマザー(幼い双子の母)で、職務との両立が厳しく絶えず睡魔と闘っているのが、これまた危なっかしい。
しかし、さすがプロファイリングマニア。
クリスマス前の人手不足から駆り出された初めての殺人現場で、「身代金が届かないことに腹を立てた犯人に殺された」とする上司の推理に異を唱える。
少女の死体は髪をきちんととかされ、とても薄着だったにもかかわらず、その死顔には笑みが浮かんでいたからで、リューシーは指摘する。

「でもご存知のように、死後一時間たたないと硬直は始まりません。一時間ですよ!ドライバーが身代金を持って逃げ去った後、犯人は静まり返ったなかで一時間も死体の口を押さえていた。六十分間、目を見開いた少女の死体と向き合っていたんです」

ヒロインの優秀さと《けだもの》の異常性が際立つ良いシーンです。
あと、娘を持つ身として犠牲者の母親に感情移入してしまったり、そのくせ待望の殺人事件にわくわくしてしまう自分を内心諌めたりと、人間らしいリューシーの描写も良いですね。
妊娠中のチョコ癖がなおらず板チョコを持ち歩いてるのも面白い。

「だめな警官だって思ってるんでしょ?警察手帳にベレッタ、それに板チョコだなんて」

《けだもの》の犯行の規模がかなり大きいことを予感させる描写もあり、とても先が楽しみです。
ところで。
この作品、映画化されてたんですね。
先日のフランス映画祭で上映されてたそうです。
こちらのページ(のPLAYをクリック)でトレーラーを見れますよ。リューシー役の女優さん(メラニー・ローラン)が別嬪さんでドキドキ(笑)
一般公開しないかなぁ。
(しかしやたら猿が出るのは何故だ。もしや『モルグ街』オチ?)
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by rushiha666 | 2008-06-20 11:50 | 小説
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