[けだもの]感想(3)ノーラ②

c0154066_1582465.gifぶっちゃけてしまえばノーラは人狼で、その獣としての欲求を満たさんがための「無軌道・ルール無用」なのだけれど・・・
それは逆に人狼のルールにはがんじがらめに縛られていることを意味したりする。
ようするに、ヴィクという残虐にして独善的かつ気まぐれな最悪の人狼に。
ヴィクとノーラの関係は「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のトムクルとブラピのそれに近い。
(シドはさしずめキルステン・ダンストだねw)
悪しき導師と無垢な弟子。
そして悪いことに導師は男で弟子は女だった・・・

ノーラが人狼の素質を持つシドにコナをかけるのも、それは恋人ヴィクから逃れたいからなんですよね。
気に入らない奴は食い殺すと嘯くノーラが、一切の抵抗を諦めてしまうほど、恐ろしい力を持った人狼、ヴィクから。
そして、なんでノーラがヴィクのもとを離れたかというと、その理由は人狼云々ではなく、ヴィクが「女たらし」で「都合のいい時だけノーラを要求」し、しかも「DV野郎」だから。
ね?ホラーでもファンタジーでもなく、酷くリアルなものなんですよ。
まったく亀母さんが言うとおりで、

>内面は女性ならではの苦しみを抱えているんです。
>この苦しみは既婚の女性の方がよーーーく分かります。


そして、さらにもう一つ重要な、「既婚の女性の方がよーーーく分か」る理由。
それが、「子供が欲しい」

変身したヴィクやノーラの描写で真っ先にあがるのが「醜い」というもの。
狼男というよりは、彼らの変身体は醜いが強力なフリークス的モンスターとして描かれます。
じゃぁ、ソレがこの作品における人狼の定義かというと、違いまして。
実は、この作品にはもう1種類の人狼が出てくるのです。
ヴィクやノーラとは違い、人とは交わらず、人里はなれた山奥に隠れ住む、平穏を求める一族が。
(彼らこそ、冒頭でシドが邂逅する、神々しい巨大な狼なわけだけど)
おそらく、ノーラやヴィクは突然変異的存在で、ノーラの不妊も、彼らのイレギュラーな突然変異的な遺伝子構造ゆえなんじゃないか、と(私は)思います。

だから、最初は傍若無人一般常識無視の、時にシドの本能が警鐘を鳴らす危険な女ノーラのその行動の裏に、ヴィクへの恐れと、実に人間的な幸福への願望があり、それが彼女を急き立てているとわかるにつれ、だんだんと彼女が可哀想に思えてきます。
夜の慟哭と、過去のヴィクの仕打ち(ぎゃー><)が明かされ、そして、トイレでの死産の後は、特に。
そして、ついに追いついたヴィクを前に、彼女は、シドを生かすことを条件に、ヴィクの奴隷に戻ることを選ぶ・・・

ヒロインだよねぇ・・・どう考えてもヒロインの立ち位置。
(以下さすがにネタバレが凄いので追記で。未読の方は回避が吉です)



でも、彼女は第2部で、死んでしまいます。
2年後、ようやくヴィクを出し抜き舞い戻ると、シドは新しい恋人が出来ていて、逆上したノーラは彼を守る森の狼と闘い、そして、死んでしまいます。

感想(4)で後述しますが、シドを責める気は毛頭ないんですよ。
彼はノーラの真意を勘付いてはいても、二人には徹底的に重ねる時間が足りなかった。
そして、シドの新たな恋人ジェーンを責める気持ちもまったくなくて・・・
じゃあ、ノーラが悪いのかと言うとそれも全然違う。
悪いのは、ノーラに「そういう生き方」しか出来ないように仕込んだ諸悪の根源ヴィクなのだけど、それは人狼どうしの(あるいは女同士の)闘いには何の意味も無く・・・

ノーラがヴィクのように完全に邪な人格だったらよかったのにね。
ヴィクによって人狼化されて悠久の時を生きてきても、その心の根底には人間としての、クリスチャンとしての良識が残っているのが可哀想で。
死の間際のノーラの、異形に変貌しながら顔への傷を忌避したり、かつて人間だった頃の幼い信仰心にすがる姿は本当に哀れで。

う~ん、やっぱり、ヒロインなんでしょうね、ノーラは。
後半は敵の役回りで、しかもクライマックスを待たずに退場するにしても。
はっきり「彼女がヒロイン」と言い切るのには抵抗がある立ち居位置にいるけれど、それほど強烈かつ複雑、そして物語の重要なテーマを担ったキャラクターなのです。
ホント、白黒付けがたいんですよ、ノーラってキャラクターは。
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by rushiha666 | 2008-04-17 15:10 | 小説
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